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Bリーグだけではない、日本の底上げにも通じうる プロスポーツ初のプロジェクト「SCS推進チーム」

「オンコートでの質こそが大切」と語る島田慎二チェアマン。それはBリーグを運営するにあたって最も重視していることだ。プロスポーツは、ファンに想像以上のものを見せ、刺激を与えてこそ価値が上がる。だからこそ選手たち、そして各チームは日々自分たちの価値を高めるため、トレーニングや練習に励んでいるわけである。

優勝を目指し、勝つためにゲームに挑む。通常、プレーオフ進出や優勝争いが絡むこともあって、シーズンが進むに連れて試合でのインテンシティー(激しさ)、プレー強度が上がっていく。その中で起きてしまうのが選手の欠場である。故障やコンディションの問題など理由はさまざまだが、その分、チームとして本来の力を出しにくくなり、目当ての選手が見られないファンもいるわけだから、試合の魅力が下がりかねない。

ケガに関しては防げないものもあるが、防げるものもある。もっと言えば、コンディションについても、メンタルヘルスケアについてもできることがあるはず。Bリーグが9月に発表した「SCS推進チーム」の立ち上げは、そんなところがきっかけとなった。チーム名は、命を守る(Safety)、選手稼働の最大化(Condition)、パフォーマンスの向上(Strength)という理念の頭文字から取ったものである。

島田チェアマンは「フィジカルやストレングスといった部分は、オンコートでのパフォーマンスに強い影響を与えるものなので各クラブそれぞれが取り組んでいます。その状況に満足することなく、リーグがリードしてデータをまとめ、クラブに情報を提供することでさらなる改善、レベルアップに繋げてほしいというところから、SCS推進チームはスタートしました」と立ち上げの理由を説明する。


SCS推進チームについて説明する数野氏【(C)B.LEAGUE】

きっかけとなったのは“選手が出場できない=リーグの価値が高められない”という危機感を感じていた事務局内部からの声だった。声を挙げた一人、競技運営グループ・数野真吾氏は「パフォーマンス強度が上がるにつれて、どうしても欠場選手も増えていってしまいます。ですが、そこに何らかの手を打たなければリーグとしてファンに届けられる価値を高められないばかりか、場合によっては下がってしまうという危機感がありました。しかし、そうした課題を解決するには事務局のスタッフだけでは専門知識が足りません。それぞれ知見を持った方々に協力していただかないとアプローチしきれないだろうと、体制化に至りました」と経緯を説明している。

SCS推進チームの発足を発表した昨年9月、Bリーグは同時に国内プロリーグでは初となる所属全チームの外傷・障害データを発表しているが、これは状況を把握、可視化するための第一歩だった。そこからさらに一歩踏み込んでいくために整形外科、脳神経外科、感染症、アスレティックトレーナー、ストレングス&コンディショニング、スポーツセーフティ、外傷障害調査研究、食品栄養、内科、メンタル、トータルコンディショニングなど細分化した専門メンバーを引き入れることに至った。

「例えばかつてはトレーナーと一括りで語られた仕事も、アスレティックトレーナーとストレングスコーチが分かれ、さらにパフォーマンスディレクターがいるといった現状に変化してきています。それぞれの領域の専門性が高まるのに合わせ、さまざまな要素を網羅し、総合的に構えておくことが重要だと考え、必要なところに必要な人に入っていただくということを重視しました」(数野氏)と、あらゆる事象に対応できるメンバーだとしている。

BリーグはSCS推進チームの監修の元、昨年12月、10月(2日~31日)に発生した外傷・障害の比較データを開示した。これによると前季比で同期間に発生した外傷・障害件数が4.8%減少したこと、さらにプレータイムが20~30分の外国籍選手は外傷・障害の発生割合が高い(日本人選手との比較では2倍程度)というデータも紹介されている。

「前季比は試合数の分母が違うので、それを考慮するとあまり良い結果という捉え方はしていません。どうしても偶発的なものは避けられないですし、焦って結果を出そうというものでもありません。ですが、情報を共有することで各クラブの取り組みも変わってきているので、さらにいいアプローチをしていきたいと考えています」と数野氏は付け加える。いずれにせよ、データを集めて“見える化”したことによって状況が把握できるようになったことは大きな一歩だと言える。

島田チェアマンは千葉J代表時代の実体験も踏まえて語った【(C)B.LEAGUE】

それでは、いかにして故障や問題を減少させていくのか?

分かりやすいのはスタッフの質・量を拡充することだ。島田チェアマンは、千葉ジェッツ代表時代、「Bリーグ初年度、大野(篤史/現三遠)ヘッドコーチを招へいした際にストレングスコーチやアスレティックトレーナーなど、チームスタッフをかなり拡充しました。強化のためにヘッドコーチからのリクエストもありましたが、私もフィジカルが非常に重要だと考えていたからです」と選手のコンディション向上に取り組んでいたと明かしている。その効果も感じていて「当時は若手選手だった富樫勇樹選手や原修太選手も体づくりに取り組むことでプレーの精度も格段にアップしましたし、ケガも減りました。それはフィジカルのトレーナーを専属で付けてからのことです。他のクラブより早めに着手したことでチームの結果に繋がったんだと思っています。いい選手を獲得することは大前提ですが、それだけでは勝てません。スタッフも強化しないと優勝することは無理だと確信を持って言えます」とスタッフが選手の力を引き出し、チームを上昇させるきっかけになりうると説明している。

その実体験もあるからこそ「クラブもマインドセットしたほうがいいと思うのです」と島田チェアマンは語る。

「どんなに優秀な選手を獲得しても、ケガをしてシーズンの3分の1を欠場してしまうこともあります。特別指定選手制度(22歳以下の選手を通常枠とは別途登録できる制度)を設けており、より若い選手に対する責任もあります。その期間にケガをしてしまう事例もありました。それをマネージすべきなのは、トレーナーだけでなく最終的にはヘッドコーチやGMになります。今は選手の年俸も高騰してきています。その選手の力を引き出すためにも、レベルの高いスタッフを雇うことが勝率アップにつながると思います」

数野氏は「そのためにはスタッフにもっと光が当たらなければいけません」と続ける。

「リーグの価値向上は、いい選手が極力長くいいパフォーマンスができること。だからこそスタッフの地位を上げなければいけません。また、このプロジェクトが進んでいけば大学やU18・高校といったBリーグの手前の環境も変わってくると思っています。将来Bリーグへ上がって来る選手たちやその周辺にも届くことによって、それぞれの取り組みが変わる。その結果、より良い選手が、良いコンディションでBリーグに入ってくることにもつながります。それはトップリーグとしてやるべきことでもありますし、日本全体のためになるものだと信じています」

SCS推進チームのような役割を持つスポーツ団体は他に存在しない。しかしながら、それが、島田チェアマンが重要視する“オンコートの質”を高めうるものであることは間違いないだろう。先駆者としてBリーグが切り開く。一歩ずつ足を踏み出し作られた道は、必ず日本バスケ界の底上げに続いているはずだ。

取材・文:月刊バスケットボール編集部

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