[SCS推進チーム] Bリーグ、日本バスケ界の成長を支えるスポーツドクターの挑戦
Bリーグ、日本バスケ界を支えてきたスポーツドクター
3試合で約38,000人を集客した「日本生命 B.LEAGUE FINALS 2023-24」に象徴されるように、Bリーグの2023-24シーズンは非常に注目度の高いシーズンになった。契機になったのが、昨夏開催されたFIBAワールドカップ2023である。男子日本代表は快進撃を見せて、48年ぶりとなる自力での五輪出場を決めた。バスケファンのみならず、多くの国民が劇的な勝利に興奮し、バスケットボールへの注目度がさらに高まることにつながった。
代表チームのドクターだった金勝乾氏(順天堂大医学部附属練馬病院整形外科・スポーツ診療科診療科長/JBAスポーツ医学委員会委員長)、沖縄会場で大会のメディカルスタッフとなっていた小松孝行氏(順天堂大医学部スポーツ医学研究室准教授/JBAスポーツ医学委員会委員)は、間近でその歓喜を見届けた。スポーツドクターである両氏は、BリーグのSCS推進チームの一員でもあり、金氏が整形外科を、小松氏は内科を担当。日本バスケと間近に接している立場として、日本代表のレベルアップ、Bリーグの盛り上がりと共に、選手の質が向上したと実感している。
アンダーカテゴリーを含め20年近く日本代表をサポートしている金氏は言う。
「選手の質が大きく向上していると感じます。トム・ホーバスHCが、代表候補に選ぶ選手の数が多くなっていることからもそれは分かると思います。昔は代表選手の所属チーム数も限られていました。大学で活躍した一部の選手しか実業団に入れなかったのですが、Bリーグが創設され受け皿が広がったことで、大学で花開かなかった選手でもBリーグで大きく成長して代表入りを果たすケースも出てきています。それだけ選手のレベルが底上げされ、選手層が厚くなってきたんだと感じています」
選手のレベルアップと共に向上しているのが、サポート体制だ。小松氏は「スポーツ医学という観点から見ると、コンディショニングやストレングス、栄養など勝つために必要なことを徹底し、選手をサポートするという考え方が進んできていると感じています。特にここ数年での充実ぶりは素晴らしいと思います」と語る。選手の底上げ、そしてサポート体制の充実があるからこそ、日本バスケ界全体の成長に繋がっているということなのだろう。ちなみにBリーグの規約には、各クラブにメディカルドクター(日本国医師免許保有者)、トレーナー(国家資格等保有者)を置く必要があると明記されている。
レベルアップするBリーグでいかにケガを防ぐか
競技レベルのアップは望ましいこと。しかしながら、フィジカルなプレーが増えることによって起こるケガや故障といったトラブルは、なるべく減少させていきたい。SCS推進チームとして行っている外傷障害調査では、スポーツドクターの立場から金氏、小松氏が中心となってデータの分析を進めている。
「スポーツドクターとして、一番関わる部分が分析です。プロバスケでどんなケガがあり、どんなケガが多いのかを明らかにすること。それが第一歩です。実態を掴んでいくことで、対策も立てやすくなります。非常に意義のある調査だと考えています」と語る金氏。小松氏は「(外傷障害調査について)多角的に見なければならないと考えています。ケガの原因は体組成が関連するのか? 栄養なのか? トレーニングは? ケアやリカバリーの状態は? NBAとの比較はどうなのか? 豊富なスタッフが揃うSCS推進チームだからこそ、多角的な視点で分析ができます。何より重要なのは、現場にどうフィードバックできるかということ。責任感を強く持って臨んでいます」と思いを語る。
小松氏はまた全日本大学連盟や関東大学連盟で医科学を担当していることもあって、「近年は特別指定選手(22歳以下の選手が他連盟に選手登録したままでもBリーグの試合に出場できる制度)として出場する大学生や高校生も増えてきています。チャンスが増えると一方でリスクも大きくなるため、橋渡しという意味も含めて高校や大学と連携する必要があると考えています」とも指摘する。将来の宝となりうる選手を守り、育てていく必要があることは言わずもがなである。
「未来のためにも、復帰を急いでほしくありません」
Bリーグを発展させるために、分析して対策を立てていく。その一方で、金氏、小松氏が特に若い選手に向けて強調するのが、自分の体を知る重要性である。
「どんなケガがあるのかや、ストレッチなどのケアについて若い頃からを知ることが大切です。バスケのスキルは大事ですが、それだけではダメ。Bリーグでもトレーナーに頼らず、自分できっちりケアをできる選手は少なくありません。例えば筋肉系の痛みの場合、トレーニングやストレッチで予防できるものも多いのです。自分の体を意識することは長いキャリアにもつながります。経験則となりますが、代表に入ってくるような選手はみんなちゃんとしていると感心します。やはりプロフェッショナルなんですよ」と金氏。一事が万事、活躍する選手の裏側には小さな積み重ねがあるというわけだ。
中学時代に自身がケガをして一度バスケをあきらめたという経験を持つ小松氏は、リハビリの知識も身に付けてほしいと付け加える。
「本人に加えてコーチや保護者も、ケガ、リハビリの知識を身に付けるべきです。何よりケガをした際に、未来のためにも復帰を急いでほしくありません。本人と周囲が正しい知識を持って協力していくことが理想だと思っています」
実は学生の場合、ケガを軽んじて“復帰を急ぐ”ケースが多いのだという。例えば、バスケでポピュラーなケガに足首のねんざがある。軽く考える人もいるかもしれないが、これは「じん帯損傷」につながるもの。復帰を急いで再発し、二度と元通りには戻らないというケースが数多くある。
「我々も声高に言っています。しかし、影響力のある選手の皆さんにも正しい情報を伝えていっていただきたい。それもバスケ界を良くすることにつながると思います」(小松氏)
今後に向けて、どんなことをやっていきたいか。バスケに関わるスポーツドクターとして、金氏は「外傷や病気など試合欠場につながるトラブルを分析し、いかに予防していくかということに尽きます。得られた知見を現場に還元していきたいという思いです」と思いを口にする。そして小松氏は「答えは現場にあるわけで、しっかりヒアリングして問題に対応していくこと。選手ファーストを忘れず、現場を見続けてやっていきたいと思います」と、SCS推進チームとクラブで緊密な関係を築いていくことの重要性を語った。
大切なのは一歩ずつ正しい方向に歩んでいくこと。その取り組みは、必ずや日本バスケ界の未来をより明るくし、飛躍へとつながるはずである。
取材・文:月刊バスケットボール編集部